ピックアップ記事

<記事>

2022年下半期(7月~12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2022年11月23日
犬と接するときはどんなことに気を付けるべきか。ドッグトレーナーの鹿野正顕さんは「犬を擬人化してはいけない。あくまで動物であり、常に本能で動いている。人間側の一方的な思いや価値観で犬と接してはいけない」という――。(第3回)

※本稿は、鹿野正顕『犬にウケる飼い方』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです。

■犬は本能を理性でコントロールできない

犬という動物を知る上で、大前提として知っておきたいのは、五感の感覚が人間とはまったく違うこと。そして脳の働きも人間とはまるで違うということです。

これは当たり前のことなのですが、ともすれば、犬と家族同様に暮らしていくうちに、犬も人と同じようにものを見たり聞いたりし、人と同じような感情を持つように思い込んでしまう方もいます。

同じ空間で生活していても、犬は人間とは違う世界で生きています。

まず感覚受容器の構造が違うため、人と同じ環境にいても、目、耳、鼻から受け取る情報が人間とはまったく異なっているのです。

感覚受容器は、外部からの刺激を脳に伝えて行動を促す役割があります。

動物の行動には、それを促す何らかの刺激が必ず存在し、五感が敏感であるほど刺激を受けやすいということになります。

その行動を司(つかさど)るのが脳ですが、人の脳と、犬などの哺乳類の脳では大脳皮質(大脳の表面部分)のとくに前頭葉の働きが大きく違います

前頭葉には、「思考・判断・情動のコントロール・行動の指令」という大事な役割がありますが、犬の前頭葉の働きは鈍く、簡単に言うと「犬は人のように本能を理性でコントロールすることが難しい」のです。

犬は哺乳動物のなかでも「頭がいい・かしこい動物」とされていますが、大脳皮質のうち前頭葉の占める割合は、人は30%、犬は7%、ネコは3%となっています。つまり、犬は人間のように何か考えに基づいて行動したり、意図的に行動をコントロールすることはほとんどできないのです。

■人にいやがらせをすることはない

そうした脳の働きをふまえて、犬の行動や認知能力を見ていくと、次のような特徴があることがわかってきます。

感情をコントロールすることが苦手

犬は、高ぶった気持ちを自分で落ち着かせたり、がまんするなど、情動・感情のコントロールが苦手です。

善悪の判断はしないし、人社会のルール理解できない

人間のモラルや道徳観とは無縁なので、自分の行為の善悪の判断をしません。基本、人の都合にはおかまいなしです。人社会のルールをそのまま押し付けようとしても、守るべき理由を理解できません。

先のことを予測して考えることができない

これをやったらどうなるか、という先のことを考えることができません。たとえば、子ども用のぬいぐるみの腕を噛んで振り回したら、腕が取れてボロボロになる……といった行動の先の結果を予測することはしないし、できないのです。

短期記憶は10秒程度で消えることも

記憶には短期記憶と長期記憶がありますが、犬の短期記憶は30秒〜120秒程度とされ、10秒程度で消えてしまうこともあります。さっきやったばかりのこともすぐ忘れて、また同じことをやるということが起こります。

人にいやがらせをすることはない

飼い主に対してわざといやがらせをすることはありません。相手を困らせて喜ぶという発想も想像力も持たないし、犬にそういう概念はないのです。

人がいやがることかどうかの判断もできません。してほしくないところへ排泄するケースも、犬に「おしっこうんちは汚い」という衛生観念はないので、「これで人を困らせてやれ」と意図することはあり得ないのです。したがって、叱られた腹いせでわざとおしっこをするようなことはありません。

■叱られても反省することはない

ほめことば/叱りことばだけかけても理解しない

「いい子だね」とか「いけない・ダメ」ということばだけを聞いて、自分はほめられたとか叱られたとかは理解できません。ことばだけではなく、ことばプラスいい結果(ごほうびがもらえる)、または悪い結果(リードを強く引かれるなど)と結び付くことで、自分の行為が肯定されたのか否定されたのかを覚えていきます。

叱られても反省はしません

「うちのワンちゃんは叱るとシュンとなって反省のポーズをします」という飼い主さんがいますが、犬は叱られても反省はしません。

なぜ悪いことなのかを理解しないし、やったことを後悔もしません。叱られておとなしくなるのは、飼い主さんが怖くて萎縮しているだけなのです。これはいくつかの実験でも明らかにされています。

叱られると目をそらしたりするのは、犬の目をじっと見て強い調子でしゃべる飼い主にケンカや闘いの前ぶれを感じ、目をそらすことで「自分は闘いモードではありません」という意志を示しているのです。

うなだれたり、体を縮めて“反省のポーズ”をしているように見えても、飼い主のふだんと違う態度に怯えて、「早くこの恐怖から抜け出したい、早くこのつらい時間が終わればいい」と思っているだけのことがほとんどです。

■食事の回数は適量を複数回に

これは摂食行動の話になりますが、犬を初めて飼ったとき、食べ物をいくらでも欲しがることに驚いた人もいるのではないでしょうか。

犬は食べ物をほとんど一気食いしてしまい、出されたものはいくらでも食べてしまう傾向があります。

これは犬が特別“食い意地が張っている”というわけではありません。犬は、人や他の動物ほど脳の満腹中枢が機能していないため、「満腹感を感じにくい」という特徴があるのです。そして一度にたくさん食べるよりも、食べる回数が増えるほうが犬はよろこぶのです。

そのため、しつけやトレーニングの際のごほうび(トリーツ)として、好きな食べ物を何度でも与えることが有効な方法になってきます。

ところが、しつけ教室などでたまにいらっしゃるのは、「食べ物で釣るなんて、浅ましくていやだ」という飼い主さんです。ごほうびに「おやつ」をあげてトレーニングすることを頑なに拒否する飼い主さんもいます。

それは「人間の物差し」でしか考えられない方なのです。

しょっちゅう食べてばかりいるとか、もらうだけ食べるのが“浅ましい”とか“意地汚い”と感じるのは人間だけです。動物にとって食べ物を見つければ口にするのは別に浅ましいことではないし、食べたばかりでも、もらったらまた食べるのは犬の本能なのです。

満腹中枢がほとんど機能していないということは、脳が「もう十分だ」という指令を出さないということ。だから犬は「もうけっこう」なんて遠慮はしないし、あげたらあげるだけ食べるのが普通なのです。

野生ではいつ食べ物にありつけるかわからないので、いまある食べ物一気に丸呑みし、大量にお腹にため込もうとしていました。その名残で、犬はごはんをあげるとほとんど噛まずに呑み込むようにして食べます。

猫はごはんを少し残したり、数度に分けて食べることが多いのですが、犬は出されたものを一気に食べてしまいます。そのため、留守番させるときなど、器に食べ物を出しておくと一度で全部食べてしまうので、自動給餌(きゅうじ)器を利用したり、遊びながら食べ物が得られるおもちゃ(コングなど)を与えるなどの工夫が必要になります。

■動物を飼うことには向いていない人の特徴

ここまで述べたように、人間と犬は感覚や脳の働きが大きく異なります。

そこを理解せずに、犬をまるで同居人のように擬人化して、人の感覚や「人間の物差し」で行動を判断してしまうと、さまざまな誤解や人の勝手な思い込みを生んでしまいます。

大事なのは、人間側の一方的な思いや価値観だけで犬の行動を見ないことです。

こうしてほしいのに、なぜできないの?
何度も教えているのに、なぜ覚えないの?

犬と暮らしていれば、そのような不満が生じるのは当たり前なのです。

人間側の都合ばかり押し付けたい人は、はっきり言って動物を飼うことには向いていません。

犬はあくまで動物で、人と同じような考え方や行動はしません。

人間の価値観や常識(=人間の物差し)で犬の行動を見てしまうのもやはり間違っています。

あらためてその点を認識し、犬の特性を尊重する姿勢を持てば、しつけやトレーニングをする際にもよけいな悩みが減ってくると思います。

■「犬は主人に対して忠誠心を持つ」は幻想

昔から犬は主人思いの動物とされて、「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」などと言われてきました。

しかし、ここにも人間の勝手な思い込みが入っている気がします。

ただ飼えばいいわけではなく、飼い主が本能的欲求を満たしてくれる(十分な食事、安心な寝床、一緒に遊んでスキンシップをしてくれるなど)ことがなければ恩は感じてくれません。

「動物なのだから、食べ物をあげていれば懐いて恩を感じるだろう」と思うかもしれませんが、それだけなら、よそでもっとたくさんごはんをくれる人を見つければ、そっちへ行ってしまいます。

同様に「犬は主人に対して忠誠心を持つ」というのも、ほとんどの場合、人間の思い込みです。これも親和性の高い飼い方をしない限り、ただの幻想と言っていいでしょう。

幸せホルモン(オキシトシン)に満たされるような、安心と幸せを感じる関係にあれば、親愛の情や絆を感じさせる行為がみられることはあります。

実際、「飼い主に危険が及ぶのを察知して知らせてくれた」とか、「か弱い子どもを懸命に守ろうとした」といった感動的なエピソードには事欠きません。

それを忠誠心と呼ぶのは自由ですが、犬は犬社会でも、仲間に危険を警告したり、犬同士で助け合う行動は普通にみられます。それを飼い主に対しても行っているだけだ、というドライな見方もできるのです。

群れで生活する動物には、危機に瀕(ひん)している仲間を助けようという行為は珍しくありません。社会性のある動物は、群れを維持していかないと自分の生存も危ぶまれるからです。

たとえばゾウの集団では、子ゾウを協力して助けたり守ったりしますが、それは群れ・集団の維持のために仲間を守る行為なのです。

そうした行動は、ときに自己犠牲をともなう“利他的”な、見返りを求めない無償の行為に見えることもあります。しかしそこには「自分の生存にも関わる」という動物の本能がはたらいているはずなのです。

■忠犬ハチ公の真実

犬は人間が好きですが、“欲求の期待に応えてくれる存在”が好きなので、人に飼われても、不満やストレスばかり抱えるようだと何年飼っても恩義や忠誠心のようなものは抱きません。

ちなみに、有名な「忠犬ハチ公」の話がありますが、ハチは飼い主だった大学の先生を、亡くなった後もずっと駅で待ち続けていたわけではなく、好物の焼き鳥をくれる人を待っていたのが真実だそうです(諸説あり)。ハチの剝製は東京の国立科学博物館に現存していますが、解剖した際にハチの胃袋からは焼き鳥の串がいくつも出てきたそうです。

----------

鹿野 正顕(かの・まさあき)
ドッグトレーナースタディ・ドッグ・スクール代表
1977年千葉県生まれ。麻布大学入学後、主に犬の問題行動やトレーニング方法を研究。「人と犬の関係学」の分野で日本初の博士号を取得する。卒業後、人と動物のより良い共生を目指す専門家、ドッグトレーナーの育成を目指し、株式会社Animal Life Solutionsを設立。2009年には世界的なドッグトレーナーの資格であるCPDT-KAを取得。日本ペットドッグトレーナーズ協会理事長、動物介在教育療法学会理事も務める。プロのドッグトレーナーが教えを乞う「犬の行動学のスペシャリスト」として、メディアでも活躍中。

----------

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aleksandr Zotov

(出典 news.nicovideo.jp)

<関連ニュース>

<記事コメント>

科学的な研究で、犬は忠誠心を持っていると考えられていたことが覆されたのは驚きです。でも、それでも犬は人間との絆を大切にする動物であることに変わりはありません。大切に育て、愛情を注げば、犬もそれに応えてくれると思います。

<このニュースへのネットの反応>

これ書いてる人実は犬嫌いなのかな?犬に飯食わせてもらってるのに大した言い分だよな。

この記事こそ「人間の物差し」で考えたものでは?

~気がしますとか、~はずなのですとか、記事にするならすべてのケースを検証できてからにしたら?

正直、表現としてアレなところが目に付くが、言いたいことはわかる。要するに「犬の考えていることと自分の考えていることを混同してはならない」ということだろう

まぁ人間の利他行為も、そうしないと自分が困るorストレスになるという利己からだからね、それに理由とかの概念を加えると忠誠心という名前になるというだけだからなあ。自分の飼育経験も加味して、根っこは同じなんだけど、犬の方がより根っこに近いと考えると割と納得がいった。

この記事べつに間違ったことは書かれてないと思うけどな。

寒そうだからって服着せてる飼い主には耳が痛い話w

犬は「何か考えに基づいて行動」が出来ないと言いつつ、ハチ公は「好物の焼き鳥をくれる人を待っていた」と言う。「駅に行けば好物がもらえる」と言う考えに基づいた行動じゃないのか?

科学的研究なんて迂遠なことしてないで犬たちに聞き取り調査でもしたらどうかなニコニューに記事出してる人たちってそういうの得意でしょ?

ハチ公の行動は駅までのルートや周辺の景色や焼き鳥屋が屋台出す時間帯とかの記憶と美味しい焼き鳥の記憶があくまでパブロフの犬的につながった行動でしかないということ幾つかの記憶と欲求が条件となって起きた反射行動に過ぎないと

獣医の免許と動物科学の博士号持ってる人がエビデンスに基づいてないわけないじゃん。一般向けに小難しい話を取り除いてるだけだよ。ムッとする内容だからって脊髄反射的に批判はちょっと。

今現在、何不自由なく幸せに暮らしてる犬が、前の飼い主と久しぶりに再会した時、前の生活のほうが厳しい環境だったとしても尻尾が引きちぎれんばかりに大喜びするのはどう説明するのかね?親和性だけで説明付くのかね?親和性とやらは犬に聞いたのかね?

諸説ありと真実と書くな プレオンの記者は数十行前も覚えてられないのか

科学的にわかったところどこ?忠誠心の定義を科学的にしてないからわかんなかったわ。

中国語の部屋みたいに、見えてる反応を人間の尺度に当てはめて解釈できないって話だと読んだけど、逆に人間の尺度と大きく離れてる保証もないでしょうよ。肯定できない部分があるから完全否定に違いありません、って主張に見える?

忠誠心の無い都合の悪い犬は食用に回せばいい

で、『科学的研究でわかった』の根拠は結局どれなんですかね? そしてここに書かれていることが全て真実であるのであれば、警察犬も牧羊犬も盲導犬も全部あり得ないという話になりそうなものですが……本当に「本能で動いており理性もないし人間のルールも守れない」のであるならば、盲導犬であろうと飲食店やスーパーマーケットなどには立ち入り禁止にするべきでは?

猫もそうやが、長い期間会いすらしないと忘れられるよ。猫はわかりやすい、寄ってこねえから。犬が尻尾振ってるのは興味が湧いてたり興奮してるから。数年会ってない元の飼い主に会った時に尻尾振ってるのは、もはやそいつが誰か忘れているからこそ、初対面の感覚で興味わいたり興奮してるだけ。感情が制御できんからやるんやで。

ようは、犬猫の行動のそれらを見た人が、勝手に「〜だろう」と思っているだけやで。家族の中で噛まれる人と噛まれない人居るが、あれは、私はあなたより上の立場なのだから私の言う事を聞きなさい、という行動なのだよ。犬の中で序列があって、噛まれるやつは犬より下という位置付けにされてるだけ。それを遊んで欲しいからとかストレスだ、とか捉えるのは人間だけ。

>>Uddālaka Āruṇi   >ムッとする内容だからって脊髄反射的に批判はちょっと   ほんとこれだな。コメ欄で感情任せに叩いてる奴らの癇癪コメントは、どれも難癖止まりだな。反論に値するだけの根拠を考えつかないくせに「自分が気に入らない情報だから叩きたい」と言う感情だけ暴走させて迷惑。ゲスト名義に至っては捨て垢丸出しで名前も持たず無責任だなと

ピックアップ記事

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事